専門家コラムColumn

Season2(5)AIを活用した企業のお客様対応の今後について - 1

2021.06.30

 『AIにより企業と顧客とのコミュニケーションはどう変わっていくか』というテーマで約2年間、筆者の見解やチャットBot、AI電話自動応答などの現状について説明してきました。今回と次回はその最終章として、「この2~3年で予測される変化」について総括していきたいと思います。1年以上続くコロナ禍の中で、企業のお客様とのコミュニケーションのデジタル化が劇的に進みました。リモートでのビジネス商談が当たり前になり、お客様からの問い合わせの対応にチャットBotやAI電話自動応答などの「自動応答ツール」を導入する企業も増えました。しかし、リモート商談やチャットなどのツールの機能(技術)がこの1年で急速に進化した訳ではなく、ユーザー側がデジタルチャネルでのコミュニケーションを受入れた、或いは受け入れざるを得なかったことがその大きな要因になっていると思います。

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 AIを活用した自動応答ツールについて、この先2~3年というタームで考えると、やはり技術的な面で劇的に進化するということは考え難いと思います。しかし、企業やユーザー側が自動応答ツールの活用方法に慣れ、有効な活用モデルを構築することにより、利便性の向上や効率化を実現していく余地はまだまだあると思っています。その“有効な活用モデル構築”のポイントについて、筆者の考えを説明していきたいと思います。

 一つ目は、自動応答ツールの実力、つまり出来ること、出来ないことを正しく理解することだと思います。自動応答ツールの得意領域は、「よくある質問や想定される問い合わせへの回答」や「定型的・簡易的な事務手続き等の受付」です。お客様ごとに個別に異なる状況をヒアリングし、個別に解決策を提示していくような応対は、得意領域ではありません。先ずは、このような自動応答ツールの得意領域・不得意領域をしっかりと理解し、適切な活用用途を設定することが必要です。

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 二つ目は、ユーザーの目線に立ち、最適な顧客対応のフローや導線を構築することです。仮に、適切な用途で自動応答ツールを活用しようとしても、例えば自社のお客様が、自動応答ツールの利用に慣れていない高齢の方が多いといった状況であれば、活用は進みません。筆者が経験した事例をご紹介します。比較的高齢の方が多い会員組織で、会員のコース変更や退会の受付に『AI電話自動応答』を実験的に導入した事例です。

 当初、会員が窓口に電話をすると、「AIオペレーターが対応します。お客様のご用件をお話下さい」というガイダンスから始まる流れを設定しました。しかし、無言の数秒間の後に電話を切る方、或いは「え、」「あの、、、」などの戸惑いの声を発した後に電話を切る方が30%近く発生しました。“突然AIによるガイダンスが流れたことに驚いた”、或いは“いきなり用件を聞かれても上手く言葉にできない”といたった方が多かったようでした。そこで、下記の3つの改善を行いました。


① 会報誌等で、会員のコース変更・退会受付電話受付窓口にAI自動応答を導入したことを伝え、事前の認知向上を行った。
② 会員の方に威圧感を感じさせないように、ガイダンスの話す速度をもっとゆったりとした口調に設定変更した。
③ 「お客様のご用件をお話し下さい」というガイダンスの内容を「お客様のご用件を“会員のコースを変更したい”などのようにお話し下さい」に変更した。

 この変更を行ったことにより、お客様から電話を切ってしまう比率が、すぐに20%以下に改善されました。そして、この「AI電話自動応答」による受付窓口は、本番運用では、「お客様のご用件」の聞き取りのエラーが2回続いた場合には、オペレーター(人)に転送される流れで運用されています。
 この事例のように、お客様の目線に立ち、顧客対応のガイダンスやフローを細かくチューニングしていくことが、利用率の向上には不可欠です。また、本番運用で行っているように、自動応答ツールで用件が解決しない場合は、人の対応にエスカレーションする導線もお客様の満足度を維持する上では不可欠となります。

 現在のAIのレベルは、まだ「人の作業の補佐をする」レベルです。将来的には、それが逆転するとも言われていますが、この2~3年という期間では、大きく状況は変わらないと思います。従って、あくまでも人の作業の前捌きや補助的な役割で活用するのが、AIの適切な活用方法と言えると思います。
 筆者がこれまで手掛けて来た「自動応答ツール」導入の案件の中で、要件が折り合わず導入に至らなかった案件や、実証実験のみで終わってしまった案件も数多くあります。それらの案件は、クライアント企業側がAIで全ての応対を完結させること目指し、それが無理だったので導入を見送ったといったケースが大半です。「人が介在するなら使う意味が無い」などと言われてしまうこともあります。

season2_2.jpg 当社側の提案力不足が原因ではありますが、このようなケースに遭遇するたびに「勿体ないな」と感じて来ました。“全ての自動化”に固執せず、定型的・簡易的な応対のみをAIにシフトするだけでも、お客様対応の効率化やコストダウンを実現する可能性は十分にあると思っています。 仮にこの2~3年で、そういった理解が浸透すれば、「自動応答ツール」の活用ケースが拡大していくと思います。そうなるとユーザー側もその利用に慣れ、それによって更に普及が進むという循環に入っていく可能性もあるのではないかと思います。

 当社は3月より、「AI」と「人」との協働により提供していく企業のお客様対応自動化支援のサービス群を『AIクラーク』という新たなブランド名称で提供しています。次回は最終回として、『AIクラーク』の説明を通じ、AIを活用した企業のお客様対応について総括したいと思います。

AIにより企業とお客様とのコミュニケーションはどう変わっていくか

西脇 紀男 Norio Nishiwaki

1993年大手コールセンターベンダーに入社。経営企画、営業企画、CRMコンサルティング部門の部門長を務める。
2010年キューアンドエーグループに入社。経営企画、マーケティングソリューション事業などの部門長を経て、2017年から2019年はコンタクトセンター事業でのAI活用を推進するAI事業戦略本部の本部長に。
現職でも引き続き、AI活用やオムニチャネル対応など次世代型コンタクトセンターのモデル構築、事業化に取り組んでいる。
立教大学大学院 ビジネスデザイン研究科修了 経営管理学修士(MBA)

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