専門家コラムColumn

【番外編】「Deep Tech ディープテック 眠れる技術」を読んで

2020.01.22

今回は、連載を1回お休みして、AI時代の働き方として示唆に富んだ『ディープテック』という本をご紹介したいと思います。

◆ディープテックとは

 ディープテックという言葉を、お聞きになったことがありますでしょうか。ディープテックとは、テクノロジーを使い社会に深く根ざした問題(ディープイシュー)を解決していく考え方、もしくはその活動を指します。現在、世界で様々な社会問題が起きており、地球の悲鳴とも言える気候変動も収まる気配がありません。本書では、なぜ日本が、ディープテックの潮流においてディープイシューを解決する必要があるのか、その意義や具体的な事例が紹介されています。
ディープテックというと、先端技術を使ってこそというイメージをもたれるかもしれませんが、ディープテックは「目の前の社会課題解決をテクノロジーで解決」することが目的であるため、むしろ枯れた技術・眠っている技術(ローテク)こそがディープイシューの解決に役立つ可能性があり、そうした基盤技術をもっていること日本の強みだと本書では述べています。

本書において、ディープテックは以下のように定義されています。(本文より引用)

deeptech.png

◆なぜディープテックなのか

著者は、ディープテックが注目を集めている背景として、以下のように説明しています。

地球規模での課題が山積しているこの時代に必要なのは、「何のためにテクノロジーを使うのか」という視点にほかならない。そこで浮かび上がってきたのが、ハイテクとローテクを「知」によって新結合し、その集合体をテクノロジーと捉えるという概念。そして、それこそがディープテックなのである。(本文より引用)

ディープテックを実現する中で、いくつかの重要なポイントがあります。
まず、「ソーシャルバリディティ」という言葉で表現されている“外部不経済を起こさない”という視点です。そもそも、現在世界が抱えている社会問題は、企業が経済成長を目指す中で引き起こした問題も少なくありません。本書では公害を例に挙げて説明しています。経済成長とともに生まれたひずみが公害であるように、ある当事者の意思決定が他の経済主体の意思決定にも影響を及ぼすことがありますが、これではサステナブルな経済成長は望めません。「ソーシャルバリディティ」とは、あらゆるステークホルダーを取り込み、最初からこうした外部不経済を起こさないような経済圏を作り出していこうとする考え方を指しています。
経済成長をしている東南アジアでは、今後この外部不経済が起きる可能性がとても高いといわれており、ここで日本の技術を応用することで、「ソーシャルバリディティ」の考え方に根ざした企業活動を展開できる可能性があるということを本書では訴えています。
しかし、なぜ著者は日本の技術に可能性を感じたのでしょうか。日本は、もともと製造業において世界で活躍しており、多くの日本製品は「長持ちする」「メイド・イン・ジャパン」の評価があります。このものづくりの力が「持続的な事業/持続的な成長」に活かされる技術なのですが、それに気づいている日本企業は少なく、著者はこの価値に気づき、世界へ、特に経済成長が期待できる東南アジアへ目を向けるべきだといいます。
さらに、ディープテックを後押ししている要素として、2015年の国連総会で持続可能な開発目標である「SDGs」が採択されたことによって、社会課題の解決は国際社会の共通認識になりました。これまでは、企業からすると、こうした目標は経営戦略としてではなく、責任など「守り」の対応として捉えられがちでした。しかし、社会課題解決が国際目標となったいま、これまでは利益を望めないと認識していた社会的事業を技術やアイデアの力で利益を上げられるものにし、持続的な事業に変えていこうというのがもう1つの特徴です。
以上のように、ディープテックには、この「ソーシャルバリディティ」と「眠れる技術(ローテク)の活用」「社会課題解決」という視点が重要になってきます。ただ、これは1社だけで出来ることではなく、多様なステークホルダーを巻き込んでいかないと実現できることではありません。

◆ディープテックとダイバーシティ

 ディープテックの特徴として、事業メンバーの多様性があります。ディープイシューは複雑な社会問題であるため、解決に向けたサービス・商品開発には、多様なメンバーの視点や協力が必要になってきます。また、事業の発案者が社会課題の当事者であるからこそ生まれたということも多く、事業メンバーには当事者や彼らの近くにいる人々が携わっていることが多いのも特長です。そのため、東南アジアのディープテックのスタートアップには、主婦、学生、高齢者など、日本では起業からは遠い人も珍しくないようです。これまではテクノロジーによる生産性の向上や効率化が叫ばれましたが、その舞台で活躍できるのはほんの一部の人だったと感じます。しかしながら、これからの時代は、テクノロジーによって、これまでスポットライトが当たりにくかった人々が活躍するシーンが増えてくることは想像に難しくありません。ディープテックには、多様化する能力を集結させることが必要だからです。特に日本は世界最速で高齢化社会に突入しており、この問題は、いずれ他国でも直面する課題でもあります

ディープテックとは大企業や国内のスタートアップ、そしてそこに東南アジアのスタートアップや研究者や国といった、多様なプレーヤーが混ざり合いながら進んでいく「運動体」である。そこに必要なのは中央統率依存ではなく、契約や組織属性といった既存の枠組みに捉われない、多様なメンバー間に相互作用がある流動的な関係にほかならない。
そこではお金がすべてではなく、知識、データ、スキル、経験、関係性、市場アクセスといった価値や概念が価値交換のアセットとなる。そんなエコシステムが築かれることで、ディープテックという運動体は前進していくことになる。
(本文より引用)

◆AI時代こそヒューマンスキルに価値が生まれる

 本書の主張の中で“AI時代の働き方”に関して示唆深い点は二つあると考えます。
一つ目は、テクノロジー(技術)に関する考え方です。これまで、技術の高度化はエンジニア達により「高度化」そのものが目的化されて研究開発されるケースも多かったと思います。しかし本書では、「何のためにテクノロジーを使うのか」という問題提起がされており、それを議論するポイントとして「“ソーシャルバリディティ”を引き起こさない」という視点が紹介されています。
そして筆者は、社会に深く根ざした問題を解決していくために技術を活用していく「ディープテック」という考え方への注目度が今後高まってくるであろうと主張しています。この点は、AIなどの技術開発やその技術活用に携わる人たちにとって示唆深い主張であると考えます。
二つ目が、必要とされるスキルや働き方の変化です。ディープテックの推進に必要なスキルは、技術面での高度な知識や開発力だけではありません。社会問題などに対する深い知見や、旧来の技術と最新の技術を組み合わせて課題解決の手段を生み出すなどの知恵が求められます。従って筆者は、自社内外を問わず、各分野のエキスパートがチームを組んでプロジェクトに取組まなければならないケースが増えてくる主張しています。
今後、ディープテックに限らず新規事業のプロジェクトにおいても、同様のケースが増えてくると思われます。
3年前にロート製薬が、従来は禁止している企業が多かった副業制度を導入したことで注目されました。また、今年に入りマイクロソフト社では、週休3日をトライアルで導入し始めました。最近では「副業解禁」や「パラレルキャリア」という言葉をよく目にするようになりました。企業と従業員の雇用関係の変化が、少しずつですが確実に進んでいます。
これらの変化も、“個人が自分の強みを活かせる場を探し、本業以外のプロジェクトを同時に掛け持ちしていく”という働き方が、近い将来主流になる可能性を示唆しているように思います。
では、異なる環境で育ち多様な価値観を持つプレーヤーたちとプロジェクトを進めていくにはどういったスキルが必要となるでしょうか。私は、自分とは違う他者への共感力や想像力が必要ではないかと感じます。そのためには、自分自身のフック(個人内多様性)を増やしていくことが必要であり、本業以外の場で得られる経験が、更にそのフックを増やしてくれるものだと感じます。
共感力や想像力は人と人との間でしか育まれないと言われ、そのためAIがもっとも苦手とする領域だとも言われています。AI時代に“人ならでは”のスキルを発揮していくという意味でも、今後は、私たち人間の根本にあるヒューマンスキルが問われてくるのかもしれません。

(参考)
ディープテック 世界の未来を切り拓く「眠れる技術」

AI時代に人々の働き方はどうかわるのか?

来栖 香 Kaori Kurusu

ディー・キュービック
ソリューション推進部 企画・販促グループ

外資系PCメーカーのコンシューマー部門を経て、2010年にキューアンドエーに入社。
広報・CSRを経て、2018年にソリューション推進部に着任。 AI事業に携わる中で、AIが私たちの働き方に与える変化について考えるようになり、AI時代の働き方・生き方を研究中。
プライベートでは、2枚目の名刺としてCSR専門誌「オルタナ」にて、CSRに関する記事も執筆中。
立教大学大学院 21世紀社会デザイン研究科修了 経営管理学修士(MBA)。

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